ラビの夢

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テキスト ボックス: 目を覚ますと、そこは見慣れない場所でした。森でも、草原でも、川の中でもありません。ラビが起き上がって辺りをきょろきょろと見回していると、頭の上のほうから声が聞こえました。
「良かった。目が覚めたのね」
 見上げると、そこにいたのは……。
(人間……)
 その人間は、にこにこと笑いながらラビを見下ろしています。
「川をうさぎが流れているんですもの。びっくりしたわ。でも、生きてて良かったわね」
 人間はラビの頭を軽く撫でると、ぱちりとテレビをつけました。初めて見るテレビを、ラビは興味津々で見つめます。
 人間は流れる映像を見ながら、あら、と小さく声をあげました。
「そういえば今日だったわね……」
 テレビに映っているのは、今日打ち上げ予定のロケットと、それを伝えるニュースキャスターの姿です。
 それをじーっと見つめるラビを見て、面白い? と人間は声をかけました。
「あれは月に行くロケットなの。今日打ち上げ予定らしいわ。この家の近くだから、打ち上げが見えるかもしれないわね」
(月……。あれに乗っていけば、月にいけるの?)
 ラビはむくりと起き上がり、周りをぐるりと見回しました。庭へと続く窓が開いています。ラビは入れられていたかごからぴょんっと飛び出すと、一目散にその窓めがけて走りました。
「あ、うさぎさん!」
 人間の声にもかまわず、ラビは庭に飛び出しました。そして、壁にあいた小さな穴から外へと飛び出しました。
「どっちにいけばいいんだろう」
 ラビはきょろきょろと辺りを見回します。すると、さきほどテレビで見たロケットが、向こうの方に小さく見えました。
「あれだ!」
 ラビはロケットの方へと向かって走り出しました。
 車の走る通りを抜け、ロケットの打ち上げ場のフェンスの隙間をくぐり抜けて、ラビはロケットの側までやってきました。
「こんな大きなものが、月まで行くのかぁ」
 上のほうまで見上げると、転んでしまいそうなくらいロケットは大きなものでした。
 その時です。ばさりと上から網が降ってきました。ラビは驚いて飛びのきましたが、それも徒労に終わってしまいました。
「ちょうどいいところにいてくれたな。一匹足りなくて困ってたんだ」
 制服を着た人間が、網の中でじたばたしているラビを見つめながら言いました。
 ラビを網に入れたまま、その人間はロケットへと近づいていきます。
「おーい、小さいけど、こいつでいいかな?」
 ラビの入っている網を持ち上げながら、人間は同じような制服を着ている他の人間たちに声をかけました。
「いいんじゃないか? そんなの気にしないだろうし」
「うん、そうだよな。じゃ、ちょっくら準備してくる」
 仲間の同意を得られたラビを捕まえた人間は、めらめらと燃えている焚き火の前にやってきました。
「宇宙食用に用意してた干し肉の数に一枚誤りがあったらしくてな。ま、悪く思わないでくれ」
 人間はそう言うと、ラビを網ごとぽいっと焚き火の中に放りこみました。
「まったく、月でうさぎの肉を食いたいなんて、頭の良いやつらの考えることにはついていけねぇな……」




「ラビ、大丈夫かなぁ」
 両親にラビが川に落ちてしまって流されたことを知らせてから、ユキは原っぱに座り込んでぼんやりと空を眺めていました。
「運命は誰にも変えられんからのぅ。ユキのせいではないのだから、悔やむことはないよ」
 ユキの隣でうとうととしていたユキの祖母が、つぶやくように言いました。
 と、その時、空をまっすぐと登っていく一筋の光が見えました。
「あ! おばあちゃん、あれ何かな?」
「ん?」
 老うさぎは孫の視線の先をじっと見つめました。上へ上へとのぼっていく光を見つめながら、老うさぎには何かぴんとくるものがありました。
「あれはラビかもしれんのう」
「えぇ? 蛍じゃないんだから、ラビはあんなにぴかぴかしてないよ」
 変なの、と言いつつユキもその光を見えなくなるまでずっと見続けていました。
 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


おしまい