幻想大地カナリアン -THE NOVELS- その一「セーラ過去編」 あらすじ: 冒険者が来ると、その世界は活気付く。そして、騒がしくなる。 では、冒険者がいない間、あのキャラクター達は何をしているのだろうか? また、過去、彼女達は何をしていたのか? そんなことを、掘り下げていきます。 第一回は、カナリアン本編でも人気の(?)セーラ=クルーの過去を掘り下げます。 なぜ、バウンティハンターとなったのか? なぜ、カグヤとライバル関係なのか? その辺が、少しでもわかればいいかな、程度です。 (注:この物語は、拙作のCard Wirth追加シナリオ「幻想大地カナリアン」シリーズの外伝です) 本編開始: 私は、エルフとして生まれた。 そう、「誇り高き純血のエルフ」として。 エルフの社会は閉鎖的だった。 何事にも掟、掟、掟・・・。 それは男性消失現象後も変わらず、女性だけとなったエルフの里では、新たに長の座に着いた女の エルフが、今日も掟を守るべく、民を監視している。 私は、そんな生活が嫌になっていた。 「あーっ、もう、なんで、こう、がんじがらめなのよッ!?」 「森の外に出てはいけない」と言う掟を破り、ぐるぐる巻きにされた私は、普段は出さないような 大きな声で吠えた。 「掟を破れば当然じゃ。3日間の幽閉など、まだまだ軽いものじゃて」 そんな私に、冷たい視線を投げかける老婆――今の長だ。 「お前みたいな素行不良は、早いとこ追放してしまいたいところじゃが、誇り高きエルフの血が 卑しき人間と混ざらぬよう、あえて里に置いてやっているのじゃ。ありがたく思うんじゃぞ、サニー」 ・・・誰が、ありがたくなんて思うもんですか。 内心でつぶやきながら、私は、縛られた自分の身体を見やる。 「はぁー・・・縄をズタズタにできる魔法があったらな・・・」 三日後。 いつの間にか眠っていた私に、まばゆい日の光が差し込む。 「ん――朝?」 ぼやけた視界が次第にクリアになっていく。そこに飛び込んできたのは、私を覗き込む長の顔だった。 「縄を解いてやろうぞ。少しは反省したか?サニー」 「・・・」私は口を開かない。 「ふてくされても、掟は掟。守らねばならぬものなのじゃ」相変わらずの冷たい視線のまま、長は言う。 「・・・掟って、誰のためのものなの?森の外に出てはいけない、とか、人間と関わってはいけない、 とか、少なくとも、今後のエルフの発展を妨げる以外の何の役にも立ってないじゃない!」 私は噛み付くように言った。 「お前は若いからそう思うだけじゃ。我々、誇り高きエルフの平和な現状を守るための掟。 ゆえに、何が何でも守らねばならぬ。これは永久不変でなければならぬことなのじゃ」 こうして、私は、元の家に返された。 私の家には、私のほかには誰もいない。 母親は、私を生んですぐに亡くなったし、父親も、男性消失現象のせいでいなくなった。 その男性消失現象から、すでに7年が経とうとしている。 でも、エルフ達は、自分達の魔術の才能を生かそうとせず、異変を解決しようともせず、毎日、 このふざけた掟を守って生きている。 ・・・冗談じゃなかった。 「私は、このまま終わらせるつもりはないからね!」 誰に言うわけでもなく、私は天に向かって吠えた。 そんなときだった。 「人間が里に忍び込んだぞー!!」 門番の大声が響く。 「えっ、人間!?」 私は思わず叫んだ。 エルフの里の存在を知っている人間など、このカナリアンにそう多くいるはずない。 ――いや、そんなことはどうでも良い。 なんだかわからないけど、これは、私にとって、千載一遇のチャンスだ―― 根拠はないけど、そう思えた。 だから、次の瞬間、私の身体は、家を飛び出していた。 「うぅ〜!アヤノシン!こんなところに里があるなんて聞いてないよ?」 私と同じくらいの子の声がした。 聞きなれない声。おそらく、忍び込んだ人間のものだろう。 それと同時に、もうひとつ、聞きなれない、男の声があった。 「私だって知りませんでしたよ。とにかく、ここを突破するしかないですね。 じゃないと――」 「じゃないと?」鬼気迫る声色の女の子の声。 「良くて火あぶり、悪くてその場で射殺でしょう!」 そして、二人は、私の前を横切った。 二人は――空を飛んでいた。 「あっ――!待って!こっちから出られるわ!」反射的に叫ぶ私。 「エルフの子、ですか。」男の人が、怪訝そうな顔をする。 「だいじょーぶ、この子は嘘は言ってないよ!」女の子が言った。 「えっ――あ、うん、嘘じゃないから!さあ、早く!」 彼女達は、その後も懸命に逃げた。 私は、長たちの目をかいくぐり、私がいつも里から出るのに使っていた獣道へ、彼女達を案内した。 途中、数本の矢が飛んできたけど、幸いにも、どれも当たらずに終わった。 「ふう、助かりましたね」 里からずいぶん離れた場所で、男の人が逃げるのをやめた。 「ありがとう、キミ!」 つられて、女の子も、私も、逃げるのをやめた。 「貴方たちは――、人間?」私は訊いた。 「ええ、人間です。薬草を取りに、あの近辺までやってきたんですが、途中で道にはぐれて しまいましてね」男の人は、さっきまでの逃避行が嘘のようなさわやかな笑顔で答えた。 「人の気配がしたから、近寄ってみたら、エルフの里だったんだもん・・・いきなり追いかけてくるし 冗談キツいよ」女の子は、息を切らせながら答えた。 「ところで――貴方達、それは?」 私は、訊きながら、彼女達がぶら下げているペンダントのようなものを指差した。 それは、私が今まで見たこともないものだった。 「これは、バウンティハンター見習いの証だよ。」女の子は答えた。 「バウンティハンター・・・?」聴きなれない言葉に、私はオウム返しをする。 「魔獣やその他が定期的に起こす異変を解決して回る職業ですよ。 もっとも、私はカグヤさんのフォロー役なんですがね」 「カグヤさん」とは、おそらく、私の隣で息を切らせたままの彼女のことだろう。 けど、私は、それよりも、興味のある言葉を聞いた気がした。 「バウンティハンター・・・どうすれば、なれるの・・・ですか?」私は尋ねた。 聞くところによれば、バウンティハンターになるには、人里へ行って、ギルドに申請を出す必要が あるらしい。 「私も・・・エルフでも、なれますか?」私は、興味津々に訊いた。 「ええ。バウンティハンターになるのに必要な資格は「やる気」と「実力」です。 それさえあれば、誰でもなれますよ」男の人は、やはりさわやかな笑顔で答えた。 「実力が足りなかったり、あたしみたいに年齢が足りなかったりすると、見習いって形に なっちゃうんだけどね」カグヤさんは付け加えて言った。 私にためらいや迷いはなかった。 「私も、バウンティハンターになりたい!」 これで、私も、里から出られる――! その思いだけが、私を突き動かしていた。 それからと言うもの・・・。 姉弟子(でも私より年下)であるカグヤさんと、私の後見役も引き受けてくださった男の人―― アヤノシンさんの二人の下で、魔法と外の知識の猛勉強に励んだ。 体力面では、圧倒的にカグヤさんの方が上だった。 反面、魔力は低い。 私はといえば、エルフと言うのもあって、魔力はすこぶる高かった。 でも、体力面では、カグヤさんに、どう頑張っても、勝てなかった。 二人は切磋琢磨しあいながら、めくるめく見習いの日々を過ごした。 そして、見習い卒業を賭けた最終試験の日は、あっという間にやってきた。 「キミには負けないからね、サニー」 「私だって、負けないわよ、カグヤ」 私たちは、もう、お互いを呼び捨て合う仲になっていた。 試験の内容は、とても単純なものだった。それは―― 「さて、これから試験を行うわけですが、内容は覚えていますね?」 「ええ、この洞窟の中にある宝箱の中身を取ってくるんでしたよね?」 「はい、そうです。」アヤノシンさんは、さわやかな笑顔で答えた。 「よし、サニー、どっちが早く試験を終えるか、競争だよ!」カグヤは意気込んで言った。 「望むところよ!」私も、意気込んで答えた。 そして、アヤノシンさんの号令が飛んだ。 「では、開始です」 ・・・それ以来、私達は、姉妹弟子と言う関係から、対等なライバル関係になった。 私達は、その後、異変が起こるたびに鉢合い、互いの実力を確かめ合った。 私が勝つ日もあれば、カグヤが勝つ日もあった。もちろん、ほかのバウンティハンターに 漁夫の利を持っていかれることだってあった。 それは、私が、エルフの里と完全に決別するために「セーラ=クルー」と名乗るようになってからも 変わらず、時には出し抜き、時には抜け駆けされながら、今日と言う日まで続いている。 ちなみに、あのときの試験は、どちらが先にパスしたかと言うと・・・。 「あたしが先ッ!」 「私が先よッ!」 洞窟に仕掛けられたトラップをかいくぐり、深部で、二つあった宝箱を、同時に開ける二人。 待ち受けていたのは、二つあわせてひとつの割符だった。 ・・・割符を合わせて、初めて文字が読み取れる。 「合格」合わせた札には、そう書かれていた。 ・・・そう、私達は、同点だった――