合鏡前編〜新たなる仲間、糸口、そして謎〜 登場人物 阿木七鈴(あき なすず):主人公。            理想の世界を手に入れるも、次第に恐怖を感じる様になった。            自分の抱いた疑問と、其れに関わった人間が消える謎を追う。 袴田弘矢(はかまだ こうや):七鈴の後輩の二課員。              気弱だったが最近では妙な程の自信家に成った。              性格は変わっても七鈴を慕う気持ちは変わらず、悩む彼女を支えてくれる。 引宮星呼(ひきみや せいこ):二課の新課長と成った、七鈴の上司であり親友だった女性。              全てを知り尽くしている様な言動から、七鈴に疑われている。              彼女もまた七鈴を警戒している様だが、真意は全くの不明。 大松篤紫(おおまつ あつし):七鈴の恋人で探偵社に勤めていた。              彼女の依頼を受けて引宮を調査していたが、失踪してしまった。 四之崎頼一(しのさき らいいち):探偵社の社長。                 七鈴に協力し、篤紫の失踪を調べるが、失踪してしまった。 鳥丸昂(とりまる すばる):四之崎社長直属の探偵社員。              篤紫の調査中に失踪してしまった。 十田万夜(とうだ まや):四之崎社長直属の探偵社員。             鳥丸に続き、失踪してしまった。 佐倉泰輔(さくら たいすけ):元二課長。               暴慢で人望の無い男であった。               七鈴とも非常に仲が悪かった筈なのだが、何故か協力的に。 ―SS商社営業二課室 「…ふう。」 何時もの様に朝一番に出社した七鈴。 気分は勿論最悪。 溜息を吐くばかりの侭、もう一時間が経過しようといている。 そろそろ二人目が来る頃だ。 「お早う御座います!あ、やっぱり先輩は早いッスねえ〜」 袴田だ。 「ん、お早う。今日も頑張りましょうね。」 「はい…と言いたいんですが、何か有りました?元気無いッスよ?」 「ううん、何でも…」 嘘だ。 袴田でなくても判る。 平静を装うつもりの七鈴であったが、誰にでも判る位に落ち込んでいた。 「まあ…言いたくないならいいッスけどね、俺は何が在っても先輩の味方ッスから!何時でも何でも言って下さいよ?」 「うん。有難う。」 随分と強気に成り、仕事振りも良くなったりと変化は多かったが、根本の七鈴を慕っている部分は変わっていない様だ。 表にはあまり出さなかったが、七鈴の心を支えるには十分だった。 袴田に感謝しつつ、一日を乗り切ろうと決意した。 ―午後零時半、テラス 「いや〜、元気が出てホント良かったッスね!」 「ええ、心配掛けて御免ね。」 「うーん…しっかし課長、どうしたんでしょうね〜」 今日の七鈴の昼食の相手は袴田だった。 四之崎が消えてから一週間が経った。 引宮とはあれ以来気まずくて話していないし、今日に至ってはそもそも彼女が休みだった。 風邪という触れ込みであったが、前回の事も考えれば、やはり嘘だろう。 彼女が何を考えているかは分からないが、独りでは簡単に動けないので七鈴には調べようが無かった。 「…袴田君。」 「何スか?」 「…ううん、何でもない。忘れて。」 「はあ…そッスか?」 「(駄目よ!また…消えてしまう…もう…誰も…)」 本気では誰かに助けて欲しい。 が、助けを求めてはまた其の誰かが消えてしまう。 其の恐ろしさから、七鈴は袴田に何も言う事が出来なかった。 結局、誰にも何も話せない侭に一日は過ぎて行った… ―午後六時、公園 引宮は居なかったが、昨日までにかなり進んでいた事もあって、仕事は早く終わった。 七鈴は会社近くの公園に独り、佇んでいた。 若しかしたら何か手掛かりが掴めるかもしれない…そんな思いが何処かに有ったのだろう。 「…何してるんだろう…私。」 ベンチに腰掛け、溜息を吐く七鈴。 優秀で何でも出来た今までに溺れていたのかもしれない。 今の七鈴は、あまりに無力な自分に絶望しか抱けなかった。 「まあ、挫折を知らん奴はそうなんのかね?」 「!?」 聞き覚えの有る声。 何時の間にか七鈴の隣に座っていたのはかつての上司、佐倉であった。 「佐倉課長…」 「もう課長じゃねえよ。ところでどうしたよ?お前がそんな凹んでるなんて珍しいが?」 「…何でもありませんよ。」 「ふう…嫌われたもんだな。だがなあ、俺は結構お前を評価してたんだぜ〜?」 「…」 「俺はさ、此れでも昔は仕事もちゃんとやってたんだがよ…何時からだったか余裕持ち過ぎちまって…でもよ、お前はずっとしっかりして  たじゃねえか。其処ンとこ、こいつは大丈夫だなって思ったワケよ。」 七鈴は驚いた。 自分を良い様に使っていただけだと思っていた佐倉が自分をそう思って居た事に。 しかし、何かが釈然としなかった。 「…違うわ。」 「あ?」 「やっぱり…違うのよ!」 「何がだよ?」 「…!!」 「あ…おい!どうしたんだよ!?」 思わず七鈴は駆け出していた。 別に佐倉が悪い訳では無い。 唯、或る予測をしてしまったのだ。 今まで、周囲の人間の心が変わり、皆が自分の理想的な形に成ってくれたと七鈴は思っていた。 自分の熱意が周囲に伝わったのだと… しかし、今回ばかりは納得出来なかった。 よくよく考えれば、あの佐倉が意外性など持っている筈が無い。 悪い意味でだが、佐倉泰輔は自分を有りの侭に出して生きていた。 『あの佐倉』は確かに七鈴を心中では評価していたのだろう。 そう、『あの佐倉』は。 『あれ』は佐倉では無い…否、他の人々も本物では無い。 皆が皆、『七鈴の理想的な形を成した別物』なのだ… そう、思ってしまったのだ。 非現実的な話だと誰もが笑うだろう。 七鈴自身、そんな発想をする自分を笑ってしまいそうだ。 しかし、もう其れ以外には考えられなかった。 今思えば、誰もが一斉に大きく変わり過ぎていた。 あのプレゼンの日を境に袴田は頼れる男に、他の課員達も優秀に、篤紫は仕事より恋人を優先し、四之崎を始めとした周囲の人間達も、何 の疑いも無く七鈴に協力的で居てくれた。 彼女は余に大きな幸せを前に、其の異常さに気付かなかったのだ。 「引宮さんが異常なんじゃないんだ…『此の世界』で異常なのは私だったんだ!」 誰もが変わった世界。 七鈴は自分が自分の理想的な人間が揃った世界に迷い込んだと推理した。 「…変わっていないのは私だけ…!!私…え…?」 しかし、駆け出して数分。 疑問がまた浮かんで来た。 「引宮さんは…変わったのかしら…?確かに彼女が上司なら理想だとは思ったけれど、其れは皆が良く成ったり、佐倉課長が『理想通りに  クビに成った』後から思った話だわ…其れに、理想的に変わったのなら佐倉課長がクビに成らなくても良い筈だし…」 どうにも七鈴には、『佐倉がクビに成る』という事象が、必ずしも自分の理想を成すに当たって、必須事項とは思えないのだ。 周囲の人間が『其の位置の侭』で自分の理想的な形に成った中、佐倉だけ『関係から除外』と成った事も他に見ない形式だ。 「引宮さんと佐倉さん…此の二人は何かが他とは違う?其の『違い』が分かれば若しかして…」 七鈴は足を止めた。 そして振り返り、元来た道を走った。 其の瞳は先程までの深い闇に覆われた絶望的な其れとは違い、新たな目標を見つけて輝きを取り戻していた。 ようやく公園のベンチまで戻った。 今までの協力者達の事を考えると佐倉も既に消えているかもと七鈴は思ったのだが、やはり他とは違うのか、彼は存在していた。 「はあ…はあ…さっきは…済みませんでした…」 「お、おう…まあ俺も自分がどんなかは分かってるからよ…大して気にしてねーけど。」 多少は驚いた様だが、佐倉のマイペースな性格からか、特に問題も無く話をしてくれそうだった。 「本当に済みません…今から全てをお話します。けれど、絶対に笑ったり、疑ったりしないで下さいね?全て本当の事なんですから…」 「ああ、分かった。お前が嘘吐く人間と思っていねえし、俺を頼ってくれるなんざよっぽどの事みたいだしな。」 「有難う御座います…実は…」 七鈴は全てを佐倉に打ち明けた。 彼も含めて全ての人間が変わった事。 引宮の事。 協力者達が次々と消えてしまった事… 「…マジかよ…しかしまあ、さっきも言ったがお前が嘘を言うとは思えねえ。そうか…俺もニセモノなのか…」 「…未だ分かりませんが、私の知っている以前の佐倉課長は…その…言い難いのですが心底駄目人間でして…親の威光を傘に威張るだけの  方でしたので…」 「あー…はは、そっか…」 流石に佐倉は苦笑いしている。 「でもアレだな。やっぱおかしいわ。俺の親父、別に偉くねーし。一応自分の実力で課長まで成ったんだしよ。」 「そう…でしたね。さっき初めて聞いた設定ですが。」 「設定とか言うなよ…まあそうだけどよぉ…んで、あー…どうすりゃ良いんだ?」 「そうですね…課長が課長だった時…何か混乱しますね。」 「俺の事は『佐倉さん』とでも呼べ。俺も混乱する。」 「では…佐倉…さんが課長だった時、課長の立場だからこそ入手出来た課員の情報とかって無いですかね?」 「アレか?さっきのお前じゃねーけど『設定』か?あの人はこういう人間だからどうの〜みてえな。」 「そう、そういうのです!」 「まあ、結構覚えてるぜ。如何にして上手く操って自分は楽出来るかを考えてたしな。」 「…」 流石は佐倉と言った所だが、今では逆に此の性格で良かったと七鈴は思った。 話が長くなりそうであったし、日も落ちてきたので二人は近くのカフェに行く事にした。 一応、佐倉が消えない様に彼を先行させ、七鈴が後ろから常に視界に入れる等の工夫をして。 ―午後七時半、カフェ 「さてと…早速と行きたい所だが、まずは…ホット頼む。」 「そうですね。では私はアメリカンで。」 窓際の席に着いた二人はお約束の注文をし、其れが来てから話を始めた。 「んじゃ、誰から行くよ?やっぱ引宮か?」 「うーん…袴田君、神能さん、奈田君辺りからお願い出来ますか?何れくらいの差が全体的に有るのかを先ずは把握したいので。」 七鈴は少し嘘を吐いた。 本音を言うと、いきなり核心である引宮の事を聞くのが怖かったのだ。 「分かった。袴田はお前の後輩だが…お前程じゃあ無いがあいつも中々に優秀だな。何でもお前の元居た大学でトップクラスの成績を誇っ  て居たそうじゃないか。まあ…お前の元の世界じゃどうかは知らないけどよ。」 「元の世界でも後輩でしたが、袴田君の成績は其れ程振るいませんでしたね。裕福な家がバックに在ったからこそ、順調に事を進められた  って感じでした。やはりちょっと違いますね。」 「だな。家はまあ裕福みたいだったが、本人のレベルが違うってトコか。性格はどうだ?こっちじゃ若干優秀故に高慢な奴だったが。」 「逆…でしょうか?要領が悪い故に向こうの佐倉さんや其の取り巻き…音岡君や牧至君辺りにイジメられていました。」 「ん、そりゃちょっと気になるな!こっちでも余に威張るからよ、音岡や牧至がツルんで奴に嫌がらせしてたぞ。」 「そうなんですか?あ、そう言えば世界が変わったと思われる日に、袴田君、ロッカーに押し込められていたんですよ。」 「間違いなくあいつ等だな。てーと、袴田に関しては奴自身が優秀って以外は基本、変わらないみたいだな。」 「そうですね…優秀に成っても立ち位置が同じですもんね。」 「じゃあ次行くか!」 其の後、神能、奈田の『設定』を互いに話し合ったが、袴田同様に仕事振りの良し悪し以外はほとんど変わらなかった。 「詰まり、一部違う点は有るものの、基本的にはそう変わらないって事だな。」 「ですね。やはり大きく違うのは今の所、佐倉さんだけですね。」 「他に大きく違う奴は居ないもんか…居たらそいつが絶対怪しいってのによ。」 しかし、其処で七鈴はふと思い付いた。 「あの、逆ではないでしょうか?全く変化の無い人間。私がそうである様に、元と何一つ変わらない人間が居れば…」 「おー、成る程な。発想の逆転ってヤツか!」 「ある仮説を立ててみたんです。此の世界が私の理想を反映したパラレルワールドであるにしては、納得がいかない部分もある。しかし、  仮にもう一人の理想も反映され、双方が都合良く交じり合っているのではないかと。そう考えると、私の様に何も変わらない人間が怪し  くなると。」 「アレかもな。元々はそいつ一人の理想世界だったのに、お前が混じって若干理想が崩れたのかもな。だから、其れ以上崩さない為に調査  する奴を消して、且つお前をビビらせて元の世界に戻る意思を強めさせようと考えたのかもしれねえ。」 「元の世界に戻る意思…ですか?」 「ああ。お前がこっちに来たのは向こうでの色々が嫌に成って、逃げたいって気持ちが働いたからじゃねえのか?アレだろ?プレゼンの当  日。まああんま言えねーけど、向こうの俺とかの所為で相当ヤバかったんだろ?で、何時もより感情が強く成ってさ。」 佐倉に言われて気付いたが、七鈴は確かにと思った。 あの日、徹夜して仕上げた原稿であったが、出来は当然悪かった。 向こうの佐倉が動いてくれるかも分からなかったし、何度も失敗し続けた後で、もう負けは嫌だと切に思った。 ずっと困難に立ち向かって来たが、あの日は限界だったのかもしれない。 「…私は自分に負けて、此の世界を生み出した…」 「まあそんな落ち込むなよ。取り敢えずアレだろ?何も変わってない奴!引宮辺りどうだ?そろそろ行ってみないか?」 「そう…ですね。今は悩んでいる暇なんて無いですよね。では…」 どうにか持ち直した七鈴。 ついに本命の引宮についての話し合いが始まった。 「引宮は所謂エリートって奴だったな。元々あいつは課長の座に最初から収まっていたんだ。ところが、俺が実績を伸ばして課長交代した  んだよ。まあ其れでも文句一つ言わないでキチっと仕事をこなしていたがな。」 「エリートですか…」 「ああ。お前が入る前の話だがな。家もかなりの金持ちらしくてよ、俺が課長就任した直後は結構モメたらしいぜ?結局引宮自身が現状を  受け入れたからもう関わるなって親に言って終わったらしい。俺自身は其の話に参加してねーから詳しくは知らんが。」 「あ、其の話なら此方でも似た様な事が在ったと聞いてます。違う点と言えば向こうの佐倉さんの家が強力で、引宮さんの家も逆らえなか  ったって事で話が終わった所くらいですね。此方でも私が入社する前の話なので詳しくは知りませんけど…」 「じゃあ、今の所引宮は違いが無いって事だな。俺が違ったからって事で多少話の展開はちげーけど。」 「ですね。後は…家族構成とか出身大学とか…」 「っと…両親、父方の祖父母、姉が一人、兄が二人だったかな。家がソコソコの会社やってるっぽいが、兄が二人も居るし、姉が大企業の  ボンボンと結婚したから本人は自由に職場を選べたとか言ってた記憶が有るぞ。大学は…K大学つってたな。」 「一緒ですね…私の世界でも全く同じです。」 「じゃあやっぱ、あいつが事の元凶か…」 一瞬の間を空け、佐倉が再び口を開いた。 「しっかし…どうなんだろうな?」 「何が…ですか?」 「アレだろ?此の世界は引宮とお前の理想が交じり合った世界な訳だよな?そう考えると、お前と引宮には何つーか…自分の理想世界にお  いての権限みてーなのが同等に有るって事だろ?なのによ、引宮はお前の協力者を簡単に消せるのにお前は何も出来ない。ちょっと卑怯  じゃねえか?圧倒的にお前不利じゃん。」 「そうなんですよね…妙に引宮さんばかり有利なんですよ。私が何かしようとしても、其れを潰されてしまいますから…」 「まあお前もやろうと思えば出来るのかもしれねーけど…あとアレだな。ケータイ。何でアレは残るんだろうな?」 「さあ…何かの意味は有るんでしょうけど…」 「そして消えた連中はどうなったんだろうな?データに例えるならよ、削除しちまったのか、別の機械に移しただけか。後者ならまだ希望  も持てるが…」 「アレですか?元の私の世界に移したとか?」 「有り得るな。まあ『移したんなら』だけどよ…」 「そう思いたいですね…篤紫…」 「あー、お前の男か。まあ特に無事を祈りたいよな。」 「あれ?佐倉さんは私に彼氏がいるって知りませんでしたっけ?」 「ああ、全く知らんぞ。」 思い返すと七鈴も佐倉にそんなプライベートな事を話した事は無い。 と言うより、普段の自分の『像』を崩したくないが為に親友をやっていた引宮にすら未だ話していなかった。 「ええと、四之崎探偵社に勤める探偵だったんですが…」 「ああ!?四之崎探偵社だあ!?」 突然佐倉が叫んだ。 「ど、どうしたんですか?何か…」 「何かもクソもあるかよ!四之崎探偵社なら健在だぞ!?社長が消えたなんて話もねえし!つーかあれだけ有名な会社の人間がポコポコ居  なくなったらとっくにニュースで騒いでるっつーの!」 「ええ!?で、でも実際に四之崎さんも、篤紫も、十田さんも、鳥丸さんも…」 「そんなバカな…おい、ちょっと行くぞ!何かおかしい!」 「探偵社に…ですか?」 「当たり前だろ!此の擦れ違いは大きいぞ?若しかしたら解決の糸口に成るかもしれない!」 妙にやる気に溢れた佐倉は七鈴の手を取ると、さっさと勘定を済ませてカフェを飛び出した。 そして向かうは四之崎探偵社。 七鈴の運転で車は出発した… ―午後九時、車内 「もう…流れで来ましたけど驚いたじゃないですか…」 「いや〜ワリィ。でもよ、良いチャンスじゃねえか!此れで四之崎探偵社が無事なら色々と聞けるだろ?」 「まあ…そうですけど…」 「時間は大丈夫か?」 「ええ。以前に四之崎さんに緊急用の連絡口を聞いていますから。其処なら何時でも応対してくれるそうです。」 其の以前は篤紫の捜索調査の時、篤紫の家に向かう途中で色々と話した時だ。 「よし…最近暇だったからよお〜、楽しくなってきたぜ…っと、スマン。軽率だな。」 「いえ、全然関係無いのに手伝って貰っているんですから構いませんよ。本当に感謝してます。」 「こんな会話信じられねえよなあ…」 どちらの世界にしても、何事も無ければ確かに七鈴を佐倉がこんな事を話すのは無かっただろう。 「もう直ぐ…あ…」 「な…バカな…」 ようやく到着した。 が、其処に四之崎探偵社は無かった。 看板は文字を剥がされ、全体的に真っ暗だ。 所謂、潰れた会社だった。 「やっぱり…」 「嘘だろ?俺は昨日、此処に来たんだぜ…?」 「え?」 「俺さ…嫁が俺がクビになった途端に怪しい行動取る様に成ったから相談に来たんだよ…そん時、四之崎社長自身が俺の担当してくれて…  有り得ねえよ!何でいきなり!?」 「落ち着いて下さい…ゆっくり、状況を整理しましょう。昨日まで探偵社は此処に在り、四之崎さんも居たんですよね?」 「ああ…」 「私が四之崎さんの失踪を確認したのが一週間前。此の一週間に何かが在ったんですよ!」 佐倉という意外な仲間が出来、ようやく一つを解決出来そうに成った途端に増えた新たな謎。 果たして七鈴の運命は? 彼女の苦悩は未だ終わらない… 前編・完        合鏡・中編に続く…