ウエブ歌集  &    松下知永


#1:スイーツレモネード



こんなところに穴があいてしまってていもうとの耳ダイヤで埋める



体育館にはりめぐらされた色テープ悩んだ顔をNに見られた



唐突にごめんなさいにおそわれてアジアンタムはみるみる枯れる



かあさんが生まれてこない泣きながら前頭葉とさかさに眠る



先生が考えすぎというのです鳩よけネットに囚われる空



透明の分別袋に入れるときテディベアは沈黙をする



理由だけ知りたかったの少女らは陰毛うすく風になびかせ



頭を低くしてれば痛みはおさまるし名前も逆からすらすらいえる



青という青が家出をうながしてぼくの鱗を光らせている



すり減ったところに雨はたまりたい子犬は肉球ふれあってたい



さよならねさあさしっぽをふりましょうきみのしっぽはまだらなんだね



お囃子のとおくきこゆる約束は帽子の前髪ばかり気にして



めをあけて児童公園でねむってるとりわけパンダいい夢をみて




#2:スイーツカフェラテ



くわえろと言うけどだるいメンタルと名古屋巻きってくずれやすいし



手袋を裏返し脱ぐ君はもう研究だけですまぬ眼をして



ドラマふうにここで怒ってみてもいい?ぎざぎざのやつでピッツァ切りつつ



目の前のフレンチフライポテトLサイズの渇き喩えるならば



すみません同情でした銀行の長椅子しんと信仰をいふ



しつれんて十代ふうでくらくらね緑の血ぬく献血ルーム



西梅田献血ルームに寄っていくこれ見よがしにくらくらしたい



ありがとうネオンテトラでいてくれて長メールの人彼やめてくれて



いくらでも冷たくなれる真夜中にFAX用紙はカールして出る



キヨスクがシャッター下ろす取り返しつかないものがこぼれはじめる



この街の空気はうすくさみしくてこぶしで胸をたたけば合図



月光に噛まれぬように背ひらく再設定に慣れてぼくらは



横縞がふやけているよあなたって湧きだす水をこぼして眠る



ひとりにつきふたりの天使がいるらしくひとりはあたしひとりはあたし



前世のせいにしたので薔薇浴の湯気あがる換気口は薔薇色



放たれてショートカットにしたように首のうしろがほろほろします



あきらめたものをやさしくするためにわたしがなくした傘を集めて



錯覚と奇跡は似てたグリーンのストロー噛んでわたしきえます



     

#3:スイーツエスプレッソ



分けるならやさしい人とできる人千の額におはようが降る



ティラミスのココアかすかに濃く淡く今日朝礼でたおれたひとり



彼降りて塩分濃度うすまりしエレベーターの浸透圧は



調節のきかぬスイッチ並びおり201A 会話しましょう



言霊の強い日だから気をつけてマスクの下のルージュあはあはし



右側が空席となり春なのにひまわり的な裏声がでて



しのびくるプネウマと思えば白シャツのきみの営業電話でしたか



美しき営業女子はうがいする無防備にのど反りてまひるま



すべてすべてよくなるはずの校了のデスクで腹式呼吸をすれば



アンチフレンチフライポテトの彼は来ずかわりに嵐やって来たりぬ



彼と2度彼女と3度ごはんして彼女は愛せず彼を憎んだ



この杖がレプリカめいてあかねさす白スニーカー泣きながら踏め



コノ次やイツカの咲きし森のありわたしの男が住んでおります



禁忌の臭いみごもる消毒用エタノールあり爽快ドラッグに



SVOのVを両手であたためつ伏線として耳たぶふくむ



水はもう忘れたように凪いでいる心臓のうえ冷えたメダルを



ただ日本に生まれたことを罪として当たる確率はみんなおんなじ



ささくれて帰り来ひとよパーマくさいわたしのなかでおやすみなさい




#4:スイーツアールグレイ



春雨は透明となりまぶしかり春には春の葱を降らせる



化粧水のサンプルさびし早春のあなたが白蝶貝のボタンを



ゆふぐれの点灯のころともるもの 星はきらい冥王星は除いて



楽譜にない音ばかり弾くひとだったさむがりこわがりさらさらいくよ



粘りつく潮風に町錆び落ちてはづんだ電話多くなる父



仄闇を抱えた友とジャスミン茶 %を匂いで満たす



春の熊わたしがねむっているすきに角砂糖ひとつ略奪されたし



淋々と豆腐は四角に盛られおりこの日の心臓真っ白にして



おめでとうをなんども言った帰り道抱きしめそうで子供を避ける



桜色のストールに隠すおとがいのわたしはしばし私守となりぬ



焼豚の白き凧糸にたれの染む決まって五月に会いたがる父



雨上がり紫陽花はふと痙攣す せんせいの手にほら@かたつむり



踊るよう8の字を描きほどきゆく紐つき封筒しずかな瞳で   



少年からうけとる手ふれた瞬間に存在軽くするふらんす紅茶



銀色にノイラートの船沈みゆきライ麦パンに蜂蜜の染む



水辺にて大きく傾ぐ彼をみる遠浅ゆえにあまくて危険



奔放にふくらむシフォン笛でよべ笛を吹いたら玉もまわりぬ



伏せられし彼のマグにも夏がくる籍の話はもうしたくない



春樹ふう名前のひとは遅れ来てピーンボールの球はすべりぬ 



くちびるの血のぬくもりをわけあってその胸筋もパジャマも理系



のぼるとき冷えゆく叡山電車なり宿のスリッパうつろうつろに



昨夏のプールの券をあまらせてまた生い立ちにさみしくふれる



そのことを考えぬようしていますもう複製ができるくらいに



愛いいえ愛いいえ愛うるう年のあずきアイスのひとさじの訴



翌日の地下鉄鶴見緑地線は心音を深みどりに沈めた